第2回「VUCA時代における教育・医療・福祉等における多職種・他機関連携の 在り方―多様性・多文化共生を基盤とした地域連携―」報告

2022年12月4日(日)静岡県コンベンションアーツセンタ-グランシップで、教育学部、多職種・他機関連携連携プロジェクト、サステナビリティセンター共催のもとフォーラムが開催されました。

<開催趣旨>
現在、子どもを取り巻く社会の状況はますます厳しさを増し,心身の健康課題も深刻化・複雑化・多様化しています。
世界は今,VUCA (Volatility【変動性】・Uncertainty【不確実性】・Complexity【複雑性】・Ambiguity【曖昧性】)時代を迎えています。
これまでの方法や考え方では対応が困難であり,新たな知の創造が求められています。教育と医療・福祉は切り離せない時代となりました。
そこで、本フォーラムでは、子どもの未来を守るために,新時代の地域医療・福祉と学校教育との新たなあり方を模索し,課題解決のための方法や工夫を考える機会となること、そして、人と人、機関と機関のつながりが、子供のための「共有の財産」となることを目的として開催されました。
県内外の、60機関、12職種の教育・医療・福祉関係者、延べ250名の方々が参加されました。
午前の基調講演1では、朝倉隆司先生(東京学芸大学名誉教授)から、「現代社会の苦難を生きる子供・若者のウェルビーイングとエンパワメント」について、健康社会学の立場からご講演いただきました。先生のご専門である健康社会学の視点から、教育・医療・福祉など多職種・機関が連携して取り組むべき子ども・若者をめぐる多様な課題をお示しいただきました。
基調講演2では、山本千香子先生(静岡県教育委員会スク-ルカウンセラ-、日本レジリエンスエデュケ-ション協会代表理事)より、「多職種連携の本質とは―連携のスキルと観点―」というタイトルでお話しいただきました。先生からは、ご自身の経験も踏まえながら、連携を困難にする3つの壁(①繋がれない壁、②協力関係をつくれない壁、③一度きりの壁)を乗り越えるための具体的な方策を伺うことができました。

午後は5つの課題別分科会に分かれ、現在、地域の子供を取り巻くさまざまな問題の解決に取り組む中で、各機関・職種が直面している課題について話し合うとともに、課題解決の方法についてさまざまなアイデアを出し合い意見交換しました。
参加者の方々からは、新しい知識を得るだけでなく、具体的な連携のイメ-ジや、さまざまな機関、人と人とのつながりができ、大変有意義な会であったとの感想が寄せられています。
【分科会別報告】
①発達障害児への支援における多職種・他機関連携の課題
話題提供者:浜松市立笠井中学校 松島佳子先生、三島市立南中学校 杉山真弓先生
コメンテーター:静岡大学 山元薫
話題提供者から、「中学校文化における特別支援教育」「教員の多職種・他機関との連携を学ぶ場の必要性」「スクールマネジメントへの多様性の対応の位置づけ」「効果的・効率的な連携の在り方とスキルの獲得」「コロナを経た学校の在り方」「学校のMissionの多様化」「多様な子ども像の共有」「合理定配慮の概念と特別支援教育の限界」「家庭・病理的・発達的背景のある子どもの連携」「学校は他機関を資源と認知しているのか?」について、各学校の実情を踏まえながら問題提起がされました。小中学校及び高等学校の教諭、養護教諭、管理職、学生といった参加者で3つのグループを編成し、論点①から④を基に検討を行いました。論点は、①校内における情報共有、チーム支援の意義、②外部機関との関わりについて、③教員が多職種・他機関を理解し、尊重して進められるための秘策、④特別支援教育コーディネーターの学校で期待されている役割と置かれている現状です。検討を受けて、「情報共有の質と方法について」「外部機関の整理と窓口について」「連携するための時間の確保」「特別支援教育の限界と他機関連携の在り方」について提案がされました。本分科会では、小中学校、高等学校と学校種が異なる中で、どのように一貫した支援をすることができるのか、子どもの困り感が変容していく中で、支援を継続することの意義を再確認することができました。しかしながら、一人一人の子どものニーズに応え連携するといった必要感と意義は理解しつつも、効率的効果的な連携をどのようにしていけばよいのか、学校のジレンマも明らかになりました。子どものニーズの多様化や学校のMissionの多様化等を受けて、今後は、行政や学校に新たな概念のコーディネーターの存在の必要性も指摘されました。

②精神疾患を持つ子供たちへの支援のあり方ー生きづらさを抱える子ども達への早期支
援のあり方ー
話題提供者 静岡県立三島南高等学校 養護教諭 西川美紀先生
伊東市役所 子育て支援課 子育て支援係 主幹 岡村めぐみ先生
コメンテーター 静岡大学教育学部 教授 鈴江毅
2人の話題提供者から、①「早期に適切な支援をつなげるためにできることは?関係機関に求めることは?」、②「隙間、切れ目のない支援のための連携、パートナーシップのありかたは?」という課題が出されました。会場では学部学生、大学院生、現役教師などからなるグループが即席で作られ、自分の経験や学問的知識、地域の現状、優れた先輩など課題に対する様々な意見を交換し、非常に多彩な示唆に富む知見を全体で共有することができました。また午前中に行われた山本千香子先生の基調講演2にヒントを得て、グループワークを通じて連携の壁である①繋がれない壁、②協力関係をつくれない壁、③一度きりの壁、を演習ではあるが実際にみんなで打ち破り、連携することができたのも大きな成果でした。
③定時制高校の今 ー中学校との連携ー
話題提供者 静岡県立静岡中央高等学校 教頭 柿沼いずみ
静岡県立伊東高等学校定時制 養護教諭 山田真穂先生
姫路大学教育学部こども未来学科 講師 沖津奈緒先生
コメンテーター 静岡大学教職大学院 特任教授 吉澤勝治
勤労学生の学ぶ場としての定時制から、多様で複雑な背景を抱えた生徒たちが学ぶ場へと変化しつつある現在の定時制高校について、柿沼さんからは夜間定時制とは異なる単位制の定時制の特色と中学校との連携の必要性、山田さんからは全国調査の結果をもとに定時制保健室の課題と支援のあり方、沖津さんからは養護教諭から捉えた定時制ならではのキャリア教育と生徒指導のあり方と中学校や多職種連携等に関する投げかけがありました。
こうした話題提供を受けたからか、中学校との連携のみならず多職種連携を踏まえた学校以外のセーフティーネットを伝え、卒業後のサポート体制を知識としてだけでなく実際に助けを求められるように支援していくことの必要性を指摘するなどグループ討議は盛況でした。                   現在の高校が抱える課題の一つである「多様性への対応と共通性・社会性の確保」のあり方を考えさせられた分科会でした。
④性的マイノリティの子供たちへの支援と課題
討論テーマ 「学校は、性の多様性を意識できているか?ー性的マイノリティも自分らしくいられる学校づくりー」
話題提供者 反町ゆうきさん(静岡大学LGBTサークルgrandiose卒業生)
小堀春希さん(小学校教諭/静岡大学LGBTサークルgrandiose卒業生)
コメンテーター 静岡大学教職センター/サステナビリティセンター准教授 松尾由希子

性的マイノリティ当事者の多くから、教員や子どもによるセクシュアリティへの差別的な言動やルールがあり学校は生きにくいとききます。性の多様性に関する知識がないからというだけでなく、学んでいても差別的な言動を無意識にとってしまったり、特定の人を排除するルールに気づかなかったりすることもあります。今回の分科会では、「①学校に存在する無意識の偏見に気づく」、「①について、どのように対応できるか」というグループワークを実施しました。グループワークに先立ち、2015年に生まれた静岡大学LGBTサークル(当事者・非当事者関係なく、セクシュアリティに関心のある人がメンバーになれる)の卒業生が話題提供をしてくれました。反町さんは当事者として自身の学校生活での体験を、小堀さんは小学校教員として「自分が感じる学校現場の実態」「子どものエピソード」を語ってくれました。出席者からは「アンケート時の性別記載欄」「性の多様性授業によって、かえって当事者を嫌な気持ちにさせていないか」「健康診断時の上半身裸の問題」などの話題があがり、性の多様性を意識して今後どのように取り組んでいったらよいか、熱いディスカッションが行なわれていました。
⑤教育、医療、福祉に関心のある高校生・学生の交流会
ファシリテーター
静岡大学 大学教育センター/サステナビリティセンター講師 安冨 勇希
討論テーマ 『SDGs 取り残されるってどういうこと?』 『ランチde SDGs!番外編』として高校生・大学生に向けてワークショップを実施しました。
これまで静岡大学の教職員と話し合ってきた「取り残されるってどういうこと?」というテーマについて、今回は静岡市内の高校生5名、静岡大学生21名、計26名と一緒に考えました。
サステナビリティセンター連携推進部門の安冨がファリシテーターを務め、まずはSDGsの概要と、自身の「取り残された」と感じたエピソードを紹介します。
そして、高校生と大学生を混ぜた小グループで、自分たちの周りや日本社会で「取り残されている事例」を紙に書き出していきます。「待機児童」「PayPayを使えない高齢者」「左利きの人」「天然パーマの人」など、様々な意見が参加者からから共有されました。その上で「誰も取り残さない社会」を実現するためのアクションプランを各グループで共創していきます。最終的に「待機児童と地域の高齢者をつなげる活動をしたい」「LGBTQの当事者やみんなに来てもらえるカフェをつくるため、まずは実際にカフェを運営している大学生に話を聞きに行きたい」「地域の外国人にどんなサポートが必要か直接質問したい」などのアクション・アイディアが生まれました。
ワークショップの終わりには、
「楽しかった。グループで話すと短い時間でも多様なアイディアがたくさん生まれると気づいた。」
「こうした話し合いの場を自分でも作っていきたい」といった感想が参加者から聞かれました。
「誰も取り残さない社会」実現のために自分にできることを参加者一人ひとりが考える有意義な時間となりました。

第2回多職種・他機関連携フォーラムご案内(静岡大学教育学部主催)